弁理士が教える特許実務Q&A(2)「特許出願公開の効果」

【質問】

当社が販売している製品に対して、「自社の特許出願に抵触する」、「補償金」などと記載されている「警告書」を受け取ったのですがどうすればよいでしょうか?

【回答】

今回のご質問は、特許出願公開が行われた後に、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者に対して特許出願人が送付できる補償金請求権の警告書に関するものです。

<特許権取得の効果は特許権成立後に初めて発揮される>

特許出願を行って特許庁の審査を受け特許権が成立した後は、特許権者のみが特許発明を独占排他的に実施できます。

特許権者以外の者が、事業として特許発明を実施する(例えば、特許発明品を会社の事業として製造し、販売する)と、特許権侵害になり、
特許権者から差止請求(特許法第100条)や、損害賠償請求(民法第709条)を受けることになります。

しかし、これは、特許権成立して以降の第三者の実施行為に関してだけです。

第三者が同一の実施行為を特許権が成立する前から継続して行っていても、特許権成立前の実施行為は、差止請求、損害賠償請求の対象になりません

 

<特許出願公開公報掲載の発明を第三者が実施すると不法行為?>

特許制度は産業発達を目的とし、新規で進歩性を有する発明をだれよりも先に公開(特許出願)した者に、所定の期間(原則として出願日から20年を越えない期間)、当該発明を、独占排他的に実施できる権利(特許権)を与え、
一方で、第三者には利用の機会(特許権存続期間中は実施許諾を受けて、特許権消滅後は自由に実施できる)を与えるものです。

そこで、特許出願では、特許請求している発明を明確に記載し、また、特許請求している発明をその技術分野の者が再現(実施)できる程度に説明する必要があります。

第三者が発明を再現(実施)できる程度に説明が行われていなければ産業の発達に結びつかないからです。

しかし、第三者の実施行為が特許権侵害になるのは上述したように、特許権成立後の行為のみです。

上述したようにその技術分野の者が発明を再現できるように十分な説明が行われている特許出願公開公報掲載の発明を、特許出願人以外の第三者が実施していても、
特許権成立前であればそれは不法行為ではなく、特許出願人は、損害賠償請求も、差止請求も行うことができません。

 

<補償金請求権を発生させるための警告書>

これでは、新規で進歩性を有する発明をだれよりも先に公開(特許出願)した者への保護に欠けることになります。

そこで、特許出願公開公報発行後、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者を知った時には、次のような内容の「警告書」を送付することが特許出願人に認められています。

<警告書の例>

御社が製造・販売されている○○は当社が特許出願し、その内容が別途の書留便でお届けする特許出願公開公報(特開20○○-○○○号)の特許請求の範囲で特許請求している発明の実施品に該当します。

そこで、当社の特許出願について特許庁での審査によって特許権が成立し、御社が製造・販売されている○○が特許権侵害品に該当することになった時には、この警告書をお届けした時点から特許権成立までの御社による○○の製造・販売行為に対する実施料相当額を『補償金』として当社に支払うよう請求させていただくことになります。

 

これを補償金請求権といいます(特許法第65条)。

特許出願公開公報に掲載されている発明を第三者に実施されたことによる出願人の損失を塡補する目的で、その実施をした第三者に対して補償金を請求できる権利を特許出願人に認めたものです。

 

<補償金請求権の警告書を受け取った時の対応>

上記の警告書を送付しても、補償金請求権を行使できるのは特許権が成立してからです

すなわち、特許権が成立しなければ、警告書送付後、特許権成立までの実施行為に対して遡って実施料相当額を請求することはできません

すべての特許出願は、原則として、出願日から1年6月経過した時点で特許出願公開されますが、その中の30~35%程度は出願日から3年の間に審査請求が行われないことで出願日から3年経過した時点で消滅します。

また、審査請求したものの中で特許成立するのは60~70%程度です。

すなわち、出願公開公報が発行されたものの中で最終的に特許成立するのはその中の40~50%程度です。

しかも、審査の過程で特許出願前に存在していた先行技術文献を指摘され、進歩性の存在を主張するために、特許出願公開公報が発行された時点よりは特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなって特許成立することが多くなります。

このため、特許出願公開公報の特許請求の範囲の記載では特許権侵害になる可能性があったが、審査の結果、特許成立しなかった、
あるいは、特許成立したが特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなったので特許権侵害にはならず、補償金請求権も行使できないことになるのがよくあります。

そこで、補償金請求権の警告書を受け取ってもあわてることなく、「特許庁での審査の結果を待ちます」として実施行為を継続することが可能です。

また、警告書を送ってきた特許出願に特許成立しないように、先行技術文献を特許庁に提出して審査に利用してもらうようにすることもできます。

 

いずれにしても、特許出願公開公報発行後に特許出願公開公報掲載の発明を実施している第三者を発見した、あるいは、上述した補償金請求権の警告書を受け取った場合には、専門家である弁理士に対応を相談することをお勧めします。

 

<補償金請求権の警告書を送付した者が負う責任は?>

特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している者に対して補償金請求権の警告書を送付したところ、相手方が実施行為を中止し、
例えば、購入していた原材料を費用発生させて廃棄処分した、等の対応まで行ったにもかかわらず、特許庁の審査で特許権は成立しなかった、ということが起こり得ます。

このような場合でも、補償金請求権の警告書を送付していた特許出願人が損害賠償請求(民法第709条)などの責任追及を受けることはありません

特許と同じく、技術的思想の創作を保護するものとして実用新案権がありますが、
実用新案権の場合、警告を行った後に、その実用新案権が無効審判請求を受けて無効になってしまったときには、警告書を送付した実用新案権者が無過失賠償責任を負うことがあります(実用新案法第29条の3)。

この点が、特許出願公開公報発行後に償金請求権の警告書を送る場合と大きく異なります。

 

次回は、この点に関するご質問への回答を紹介します。