特許と実用新案登録の違い(権利侵害編)

当社の製品に対して実用新案権侵害だとする「警告書」を受け取りま した。どのように対応すればよいでしょうか?

実用新案権も特許権と同様に独占排他権です。実用新案権者は権利侵害者に対して差止請求(実用新案法第27条)、損害賠償請求(民法第709条)できます。しかし、実用新案制度に特有の事情があります。この点を中心に説明します。

特許と実用新案の共通点

 特許で保護される対象を「発明」、実用新案で保護される対象を「考案」といいます。両者はいずれも「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるという点で共通しています。特許でも実用新案でも権利者には所定期間の独占排他権が与えられます。特許権者には出願日から20年を越えない期間、実用新案権者には出願日から10年を越えない期間の独占排他権です。この点でも両者は共通しています。

 このような共通点があるにもかかわらず2つの制度が併存しているのは「発明の水準をある程度高く維持しながら同時に創作意欲の減退を防ぐためには、特許制度とは別の簡便な制度を設けて比較的程度の低い発明を保護することが合理的と考えられる」からであるとされています(工業所有権法逐条解説)。

 「方法」、「製造方法」や、特定の外観・形態を有さない「物質」、「組成物」などは、特許では保護されますが、実用新案では保護されません。実用新案では、特許でも保護される「物品の形状、構造又は組み合わせに係るもの」しか保護されないことになっています。

 「比較的程度の低い発明を保護する」観点から、特許・登録のために越えることが要求される「進歩性」の程度が特許で保護される発明に要 求されるより実用新案では低くてよいとされています。ただし、日本のように技術の進んだ国で「技術的思想の創作」についての進歩性の程度 を判断するときに、発明(特許)と考案(実用新案)で差を設けるのはいかがなものかという見解があります。現状では、特許・登録のために 越えることが要求される「進歩性」の程度は発明(特許)でも考案(実用新案)でもほとんど相違していない取扱いになっていると思われます。

実用新案は無審査登録

 実用新案が特許と大きく相違しているのは、特許庁への出願後、実用新案権の付与が請求されている考案が新規性、進歩性、等の登録要件を備えているか否か審査官が行う審査(=実体審査)を受けることなしに実用新案権が付与される点です。

 特許の場合、特許出願手続の他に行う「出願審査の請求」によって開始される「実体審査」を経てからでなければ特許権は設定登録されません。審査官が行う「実体審査」で新規性、進歩性、等の特許要件を満たしていると認められたものに対してのみ特許権が付与されます。

 一方、実用新案の場合には出願の際に出願料だけでなく1~3年分の登録料も納付し「実体審査」を受けることなしに実用新案権が設定登録されます。その昔は、実用新案も、出願手続の他に「審査請求」があったものだけ審査を受け、新規性、進歩性、等の登録要件を備えていると認められるものにだけ実用新案権が付与されていました。しかし、出願から比較的早期に実施され、ライフサイクルも短い技術を適切に保護する観点で1994年から無審査登録制度になりました。

 実用新案では出願後2カ月程度で審査を受けることなしに登録され、出願後3カ月程度で実用新案登録公報が発行されて出願内容(=登録を受けた実用新案の内容)が社会に公表されます。特許出願では出願後18カ月経過してから特許出願公開公報が発行されて出願内容が社会に公表され、実体審査を受けて特許権が成立したものについてだけ特許公報が発行されて特許成立した発明の内容が社会に公表されます。

 実用新案は上述した目的で出願後早期に無審査で登録しています。しかし、現状の特許出願では審査請求後平均11カ月で審査結果を受け取れます。また、早期審査請求した場合には審査請求後3~4カ月で審査結果を受け取り、速ければ出願後半年程度で特許成立することがあります。

 このように現状では出願後早期に権利付与を受けることは特許出願でも可能です。一方で、実用新案には権利行使にあたって後述する制約があります。このため、1993年以前は毎年9万件程度の実用新案登録出願がありましたが、現状では年間6000件程度で、毎年32万件程度になる特許出願と比較すれば実用新案の出願は少なくなっています。

実用新案権の警告には「技術評価書」が必須

 特許では第三者が特許権侵害を行っていると認められる場合、特許権者は警告書を送付して侵害行為の停止を求めることができます。実用新案では、第三者が実用新案権侵害を行っていると認められる場合であっても、実用新案権者は「実用新案技術評価書」(以下「技術評価書」)を提示した後でなければ侵害行為の停止を求める警告書送付、等の権利行使できません(実用新案法第29条の2)。実用新案権は無審査で登録されているからです。

 「技術評価書」は特許庁が請求を受けて作成します。所定の料金(42,000円+請求項の数×@1,000円)を特許庁へ納付して請求することで3~4カ月で作成されます。実用新案登録を求める考案が登録に値する新規性、進歩性を備えているものであるかどうか、特許庁審査官による鑑定的な評価が下されます。「技術評価書」が提示されることで警告書を受け取った第三者は実用新案権の有効性を判断できます。

 「実用新案技術評価書を提示せずに行った警告は、有効なものとは認 められず、その状態で侵害訴訟を提起しても、直ちに訴えが却下されるわけではないが、評価書が提示されない状態のままでは、権利者の差止請求、損害賠償請求等は認容されないものと解される」とされています(工業所有権法逐条解説)。

実用新案権者が負う無過失賠償責任

 特許では、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者に対して補償金請求権を発生させるための警告書を送付した後、「実体審査」で出願が拒絶されて特許成立しないことが起こり得ます。この場合でも当該警告書を送付していた特許出願人が責任追及されることはありません。

 実用新案では、警告書送付、等の権利行使を行った実用新案権が無効であった場合に、実用新案権者は、無過失であることを立証できない限り、すなわち、実用新案権者が相当の注意をもって権利行使したことを立証できない限り、損害賠償責任を負わねばなりません(実用新案法第29条の3)。いわゆる無過失賠償責任です。この点、国(特許庁)が実体審査を行った上で権利付与している特許権と大きく相違します。なお、実用新案権者が「技術評価書」の評価(登録性を否定する旨の評価を除く。)に基づき権利を行使したとき、その他相当の注意をもって権利を行使したときは、損害賠償責任を免れることになっています。

実用新案権に基づく警告を受けた場合の対応

 無審査で登録されているとはいえ、出願人が十分な先行技術調査を行ってから出願を行っている、等で、有効な実用新案権が存在していることもあります。特許権者から警告を受けた場合、警告を受けた自社の行為が特許権侵害に該当するかどうか慎重に検討する必要があります。実用新案権者からの警告の場合には、警告を受けた自社の行為が実用新案権侵害に該当するかどうか慎重に検討するだけでなく、技術評価書添付の有無、技術評価書の評価内容についても慎重に検討する必要が生じます。

 そこで、実用新案権者から警告を受けた場合あるいは、第三者が実用新案権侵害を行っているようだとお気付きになった場合、専門家である弁理士に早急に相談されることをお勧めします。

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