特許侵害に対する効果的な対策:競合品の販売を阻止するための具体的な手順

当社の特許権を侵害しているのではないかと思われる他社の製品を発見しました。当社の特許品の競合品になっていますので販売をやめさせたいのですが、どのようにすればよいでしょうか?

特許権侵害品が特許発明品と競合することで、特許発明品の売り上げが落ちる等の事態になることがありますので早急な対応が必要です。ただし、最終的には他社を被告として訴訟に臨むこともあり得ますから慎重な対応が必要になります。

自社の特許権を確認する

 そもそも特許権が存在していなければ、特許権に基づく権利を行使することはできません。特許権は、特許発明を独占排他的に実施(例えば、製造、販売)することができる権利であり、特許権侵害行為に対して差止請求(特許法第100条)、損害賠償請求(民法第709条)することができます。このような特許権の効力は、特許権が成立してから発生します。特許権侵害していると思われる他社の製品(以下「侵害被疑品」といいます)に関しては、特許権が成立して以降の第三者による製造・販売行為だけが特許権侵害ということになります。

 ところで、「当社のこの製品に採用されている発明に特許を取得していたはずだが・・・」と認識されていても、特許権を維持するために特許庁へ毎年納付しておく必要がある特許料(特許維持年金ということがあります)の納付を中止していたことで、特許出願の日から原則として20年を越えない期間存続し続けるはずの特許権が既に消滅していたということがあり得ます。

 そこで、そもそも、自社の特許権は存続しているのかという点を確認する必要があります。

侵害被疑品に関する詳細な情報収集

 侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に属する場合に初めて特許権に基づく権利行使が可能になります。侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に属するか否かは非常に微妙な問題で、専門家である弁理士等に相談し、慎重な判断を受ける必要があります。

 侵害被疑品を購入してきて分解することで特許発明が採用されていることを簡単に把握できるものであるならば、市場で販売されている侵害被疑品を購入して弁理士のもとに持参し、そこで分解して説明し、判断を受けることが可能でしょうが、そうでない場合には、非常に難しくなります。

 侵害被疑品を販売している会社が侵害被疑品を宣伝・広告するために発行している広告物・パンフレット、WEBサイトでの製品紹介、侵害被疑品の取扱説明書、侵害被疑品を販売している会社が展示会などにおいて行った製品説明など、侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に属するか否かを判断する上で必要と思われる情報を可能な限りたくさんの集めることが望ましいです。

 また、侵害被疑品が特許権侵害品に相当すると判断して販売行為の停止を求める警告書を配達証明郵便などで相手方に届けることにする場合には、将来、特許権侵害行為差止請求訴訟、特許権侵害行為損害賠償請求訴訟に臨むことが考えられます。

 そこで、侵害被疑品が販売開始された時期、侵害被疑品が販売されている場所、侵害被疑品の販売態様、侵害被疑品の販売価格、侵害被疑品のおおよその販売数予測などの情報も可能であれば収集することが望ましいです。

侵害被疑品と特許発明との詳細な対比

 侵害被疑品を販売している他社に対して「特許権侵害行為になりますので販売を中止してください。」というような内容の警告書などを配達証明郵便などで届ける場合、これを受け取った他社は大きな衝撃を受けるのが一般的です。特許権侵害は差止請求の対象になりますので、販売行為を中止する必要が生じ、場合によっては、製造済の製品の廃棄、製造に供した設備の除去まで請求されることがあり得ます(特許法第100条2項)。また、特許権侵害品に当たると認められた侵害被疑品の販売によって特許権者が損害を受けていた場合には、その損害を賠償する必要が生じます(民法第709条)。

 上述の警告書をいきなり受け取った他社は大きな衝撃を受けることになりますから、特許権者の誤解・誤認で、明らかに特許権侵害にならない場合、警告書の文面・内容によっては、警告書を受け取った他社との関係が悪化することすら起こり得ます。

 そこで、侵害被疑品が、特許発明の技術的範囲に入り、特許権侵害品に相当するものとなるのであるかどうかについては、慎重な上にも慎重を期して検討することが望ましいです。

 特許権侵害行為差止請求訴訟に臨む場合、裁判所で、侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に入り、特許権侵害品に相当するものであることを、侵害被疑品と特許発明の構成とを詳細に対比して立証しなければなりません。上述した警告書を送付する場合でも、侵害被疑品と特許発明の構成とを詳細に対比して、特許権侵害品に相当するものであることを詳細に説明することが望ましいです。

 侵害被疑品と特許発明との対比が不十分な状態で「特許権侵害行為になりますので販売を中止してください。」等の強い主張で臨み、「当社製品は御社の特許発明の構成要件の全てを充足するものではないので特許権侵害に当たらず、お申し越しの要望にはお応えしかねます。」というような回答を受けた場合には、特許権侵害行為差止請求訴訟に出て裁判所で十分な主張・立証ができるのか?ということになり、前記のような回答を受け取っただけで終わりにしてしまうことすらあります。

 特許発明の構成と詳細な対比を行うことができる程度に侵害被疑品の構造・構成を把握することができない場合、例えば、「警告書」という表題ではなく「問い合わせ」というような形式にし、侵害被疑品の構成を問い合わせ、他社が「特許権侵害でない」と判断するときに、その理由を説明していただくようにすることもあります。また、侵害被疑品を販売している会社と日ごろの付き合いがあり、話し合いができるならば、警告書のような書面で対応するのでなく、話し合うことで解決できることもあります。なお、侵害被疑品を製造している会社に警告書を送るのであればともかく、侵害被疑品の製造元ではなく、販売店に対して警告書を送り付ける場合、その警告書の内容次第では、「特許権侵害品に当たる」という主張が成り立たなかったときに、侵害被疑品の製造元から、営業誹謗行為(不正競争防止法第2条1項15号)であるとして、訴えられてしまうことすらありますので注意が必要です。

所有している特許の有効性の確認

 侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に入り、特許侵害品に相当すると判断することができ、送付した警告書への回答次第では特許権侵害差止請求訴訟に臨むことを考えるときには、権利行使の根拠になる特許権の有効性を確認することが望ましいです。訴えを受けた会社(被告)が、訴訟において無効の抗弁を申し立て、これが裁判所で認められてしまうことがあるからです。無効の抗弁とは、特許権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許庁での特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は相手方に対しその権利を行使することができないという特許法第104条の3に基づく抗弁です。

 特許権は特許庁の審査を経て成立していますから、特許を無効にする理由(先行技術文献等)が存在することは多くありませんが、特許庁が把握できなかった業界内での情報(業界紙・誌など)を根拠にして特許が無効にされることがあります。このため、出訴まで考慮されるのであれば、所有されている特許権の有効性を念のためにご確認されることをお勧めします。

専門家への相談

 「他社の製品が当社の特許権を侵害している」と思われる場合、この事態への対応は慎重に、なおかつ、スピーディに行うことが望ましいです。侵害被疑品に関する十分な情報を収集して弁理士などの専門家に相談することをお勧めします。

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