まつげエクステンションの専門店を運営するリリーラッシュ社が、元従業員が顧客に関する情報を持ち出した行為などが不正競争行為に該当するとして、損害賠償と行為差止を求めた訴訟で、知的財産高等裁判所は、同社の請求を棄却しました。

 令和2年(ネ)第10066号 損害賠償請求、不正競争行為等差止請求控訴事件
(原審 東京地方裁判所 平成31年(ワ)第10672号)

 リリーラッシュ社は、元従業員(被控訴人Y1)に対して、同人がリリーラッシュ社の顧客に関する情報を取得した行為が営業秘密の不正取得であるから不正競争行為に当たるとして、また、被控訴人Y2、Y3らが共同経営するまつげエクステサロンにおいて、上記営業秘密が被控訴人Y1により不正取得されたことを知りながら、又は重過失によりそれを知らないで上記営業秘密を取得、使用等したことについて不正競争行為に当たるとして、被控訴人ら対して損害賠償金の支払を求めるとともに、被控訴人Y2及び同Y3に対してリリーラッシュ社が「顧客情報」と主張するリーラッシュ社の顧客に関する情報の使用の差止め及び廃棄を求めていました。

 原審(東京地裁)はリリーラッシュ社の請求をいずれも棄却し、リリーラッシュ社が知財高裁に控訴していました。

 知財高裁は、以下のように判断して、リリーラッシュ社の控訴を棄却しました。

 「顧客カルテは、その画像が日常的に従業員の私用スマートフォン等に特段の制約もなく記録され続けていたのであり、控訴人の営業期間を通じれば顧客の範囲及びその数は相当多数かつ広範なものに至っているとうかがわれる一方、その漏出、拡散等を防止する格別な手段がとられていたとは認められない。そうすると、このような顧客カルテの利用状況に鑑みて、少なくとも、特に従業員間で共有を図られていたと推察される顧客カルテの施術履歴部分は、不競法に定める秘密管理性の要件を満たしていない。」

 「本件施術履歴は、秘密管理性を欠くのであるから、その余の点について判断するまでもなく、営業秘密であるとは認められない。したがって、本件送信行為が営業秘密の侵害に係る不正競争行為に該当する余地はないから、控訴人の被控訴人Y1に対する請求は、理由がない。」

 「本件施術履歴は、秘密管理性を欠くため営業秘密とは認められないから、被控訴人Y2及び被控訴人Y3の不正競争行為の前提となる被控訴人Y1の営業秘密不正取得行為は認められず、被控訴人Y2及び被控訴人Y3が、営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失より知らないで営業秘密を取得したり、その取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為をすることもない。」

 「以上のとおり、控訴人の請求は理由がないから、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。
したがって、本件控訴は理由がない。」

 人間の頭の中で考え出され、財産的な価値を生み出す知的な情報(例えば、ノウハウなど)を、特許出願を行うことなしに会社の営業秘密として保護しようとする場合の秘密管理性の重要性を認識させる判決でした。

<特許出願(特許申請)の基礎知識>

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