特許申請の流れを把握することは、新しいアイデアや技術などの発明を保護するために重要です。そして、特許申請の流れには複雑な手続きや法律的な要件が存在するため、特許申請の流れについて理解することは重要です。本記事では、日本の特許申請の流れについて詳しく解説します。

 なお、「特許申請」という用語は、特許を受けるための手続きを表す正しい表現ではなく、正確には「特許出願」といいます。法律的には「申請」は、書式や手数料などの形式が整っていれば認められる手続きとされています。そして「出願」は、審査をして要件を満たしている場合に認められる手続きとされています。特許を受けるための手続きは、審査が必要な手続きであることから、「特許申請」ではなく正式には「特許出願」と呼ぶべきものです。

特許申請の流れ1:アイデアの特定

 特許申請の流れにおいて、特許庁に特許出願する前に、その準備として、まずは、どのようなアイデア(発明)を特許として出願するのか、すなわち、特許を受けようとするアイデアを特定します。アイデアを特定するには、検討中のアイデアを従来技術と対比することによって、アイデアの特許性を評価しながら、アイデアのブラッシュアップを図ります。この作業を疎かにして特許申請を進めてしまうと、特許の取得に失敗したり、意味のない特許を取得することとなり、結局、時間とお金を無駄にすることになりかねません。

 アイデアを特定する6つのステップは次のとおりです。

① 特徴を捉える

 特許を受けようとするアイデアを特定するには、まず最初に検討中のアイデアの特徴を捉えることが必要です。ここでアイデアの特徴を出来るだけ沢山見つけることによって、後々、強力な特許を取りやすくなります。特徴を捉えるコツは2つあります。
 一つは、「とにかく書き出す」、頭の中に浮かぶことを次々に書き出します。これは、特許になるかどうかは余り考えずに、とにかく思い付いたことをドンドン書き出します。
 そしてもう一つは、「具体的にイメージする」、アイデアを頭の中でアイデアを具体的な製品へ落とし込み、製造したり使用している状況を想像してみます。そうすると、違ったアイデアや新たな問題点など気付かなかった点が見えてきます。

 例えば、こちらのアイデアの特徴を挙げてみると…

  1. 軸の末端に消しゴムが付いている鉛筆
  2. 軸が木でできている鉛筆
  3. 軸の中に黒鉛の芯が入っている鉛筆
  4. 表面がオレンジ色で塗装されている鉛筆
  5. 軸の断面は六角形である鉛筆

 このような特徴を書き出すことができます

②作用・効果を掘り下げる

 次に、いくつか書き出したアイデアの特徴からそれぞれ、どのような作用によって、どのような効果があるのか掘り下げていきます。具体的には、その特徴に対して、だからなに?、それでどうなる?、その結果は?などと連想ゲームのように次々と問いかけていきます。そうすることによって、その特徴の作用や効果を掘り下げることができます。どこまで掘り下げるかは、ケースバイケースです。作用や効果が1つしか見つからない場合もあれば、複数の作用や効果がそれぞれ見つかる場合もあります。

 特徴から作用・効果を掘り下げたアイデアは、最終的に次のように表現することができます。

この○○は、○○(という特徴)なので、
○○できる。
その結果、○○できる。

 先程の鉛筆の特徴1に当てはめてみると、次のように表現できます。

【アイデア1】
この鉛筆は、軸の末端に消しゴムが付いているので、
筆記中に上下反対に持ちかえると消しゴムとして使用できる。
その結果、書くペースを乱さずに筆記できる。

 なお、先のステップで書き出した特徴の全てについて作用・効果を掘り下げる必要はなく、技術的に面白そうなものをいくつか選び、それぞれの特徴から作用・効果を掘り下げていきます。

③多面的に捉える

 次に、特徴から作用・効果を掘り下げたアイデアに含まれる構成要素他の概念に置き換えて多面的に捉えられないか検討します。

 先程のアイデア1の場合、構成要素である「鉛筆」に着目して多面的に捉えると「筆記具、ロケット鉛筆、万年筆、シャープペンシル、ボールペン」などが思い浮かぶかもしれません。しかし、このアイデアの作用・効果との関係を考えると、「ロケット鉛筆、シャープペンシル」でなければ消しゴムで筆跡を消すことができないため、その作用・効果が成り立ちません。そのため、「鉛筆」に加えて「ロケット鉛筆、シャープペンシル」であればアイデア1に適用できることが分かります。

 この検討内容から次のようにアイデア1を多面的に表現することができます。

【アイデア1】
この「鉛筆、ロケット鉛筆、シャープペンシル」は、軸の末端に消しゴムが付いているので、
筆記中に上下反対に持ちかえると消しゴムとして使用できる。
その結果、書くペースを乱さずに筆記できる。

 もちろん、「鉛筆」だけでなく「軸」「末端」「消しゴム」などの構成要素についても多面的に捉えられないか検討します。

④抽象的に捉える

 次に、多面的に捉えたアイデアの構成要素抽象的に捉えらえることができないか検討します。

 先程のアイデア1において多面化した「鉛筆、ロケット鉛筆、シャープペンシル」は、黒鉛の芯を用いて筆記するものという点で共通します。そのため、「鉛筆、ロケット鉛筆、シャープペンシル」は、「黒鉛の芯を用いた筆記具」という表現で抽象化できそうです。

 この検討内容から次のようにアイデア1を抽象的に表現することができます。

【アイデア1】
この「黒鉛の芯を用いた筆記具(鉛筆、ロケット鉛筆、シャープペンシル)」は、軸の末端に消しゴムが付いているので、
筆記中に上下反対に持ちかえると消しゴムとして使用できる。
その結果、書くペースを乱さずに筆記できる。

 このステップでも、「軸」「末端」「消しゴム」などの他の構成要素について抽象的に捉えられないか検討します。

⑤先行技術調査

 次に、ここまで検討したアイデアと同じ技術や似たような技術が世の中に存在しないかどうか調査します。この作業を先行技術調査といいます。同一の技術や類似の技術が存在する場合には、新規性がない(新しくない)アイデアであったり、進歩性がない(簡単に思いつく)アイデアであるとして特許を取得できない可能性が高くなります。

 先行技術調査には、Googleなどの検索エンジンを使用したり、過去の特許文献を検索可能な特許文献データベースを使用することができます。特許文献データベースとしては、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」という無料のウェブサイトがおすすめです。

⑥アイデアの決定

 先行技術調査の結果、同一や類似の技術が見つからず問題がなさそうであれば、そのアイデアを特許出願を進める発明として決定し、特許出願書類を作成するステップに進みます。

 一方、先行技術調査で問題があれば、その調査結果を踏まえて、アイデアの特徴を捉える最初のステップからの作業を繰り返します。

 ここまでの作業には手間がかかりますが、これには2つの目的があります。

 1つは、「発明(アイデア)の本質にたどり着く」ことです。検討中のアイデアをその特徴から作用・効果にまで掘り下げて多面的・抽象的に捉えることによって、発明者自身が気付いていない発明の本質にたどり着き、より強力な特許の取得に繋がります。

 もう1つは、「審査通過のロジックを構築する」ことです。特許の審査では、新規性・進歩性の判断が重要となります。先行技術調査を通じて検討中のアイデアに関する先行技術を把握することによって、審査官を納得させて特許審査を通過させるためのロジックを特許出願書類に予め構築することができます。

 つまり、これらの作業を行うことで、より強力な特許でありながら特許審査を通し易くすることを両立できるという訳です。

特許申請の流れ2:特許出願書類の作成

 特許申請を進めるアイデア(発明)を特定できたら、次の流れとして、特許庁に提出するための特許出願書類を作成します。

 特許出願書類として作成する書類は次の6つです。

①特許願

 特許願は、願書とも呼ばれる書類です。願書の記載事項は、【発明者】【出願人】の氏名や住所など、その特許申請に関する基本的な情報です。この願書には、特許を求める発明に関する書類として、後述する明細書、図面、特許請求の範囲、要約書を添付します。

【書類名】特許願
【整理番号】########
【提出日】令和〇年〇月〇日
【あて先】特許庁長官殿
【国際特許分類】B43K  19/00
【発明者】
  【住所又は居所】○○県○○市○○区〇丁目〇番地
  【氏名】申請 太郎
【特許出願人】
  【住所又は居所】○○県○○市○○区〇丁目〇番地
  【氏名又は名称】株式会社特許申請
【代理人】
  【識別番号】100129001
  【弁理士】
  【氏名又は名称】林 崇朗
【手数料の表示】
【指定立替納付】
【納付金額】14000
【提出物件の目録】
  【物件名】明細書 1
  【物件名】特許請求の範囲 1
  【物件名】要約書 1
  【物件名】図面  1

明細書

 明細書は、特許を求める発明を詳細に説明する説明書です。この書類は、特許出願書類の中で最も記載量が多くなります。明細書には、その発明を当業者(同業者)が実施できる程度に明確かつ十分に記載する必要があります。また、基本的に、出願後に明細書に新たな事項(新規事項)を追加することはできません。そのため、特許出願の段階で、発明に関連する十分な情報を明細書に記載することによって、特許審査を通過するためのロジックを構築する必要があります。

 明細書には、例えば次のように記載します。

【書類名】明細書
【発明の名称】
【技術分野】

 本明細書は、筆記具に関する技術を開示する。
【背景技術】
 筆記具としては、軸の中に黒鉛の芯が入っている鉛筆が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
 【特許文献1】
特開20XX-000000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】

 従来の筆記具では、筆記中に筆跡を消す際には消しゴムに持ち替える必要があり、書くペースを乱されるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
 本明細書に開示する一形態の筆記具は、黒鉛の芯を有する軸と、その軸の末端に取り付けられた消しゴムとを備える。
【発明の効果】
 この筆記具によれば、筆記中に上下反対に持ちかえると消しゴムとして使用できる。その結果、書くペースを乱さずに筆記できる。
【図面の簡単な説明】
  【図1】鉛筆の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
 図1は、鉛筆10の構成を示す説明図である。鉛筆10は、黒鉛の芯12を用いた筆記具である。
 鉛筆10は、芯12と、軸14と、消しゴム16とを備える。鉛筆10の芯12は、・・・
 ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・
【符号の説明】
  10…鉛筆
  12…芯
  14…軸
  16…消しゴム


図面

 図面は、明細書の説明を補足する書類です。この書類は、特許出願書類として必須のものではありません。しかし、図面のない特許出願を見つける方が難しいぐらい、ほぼ全ての特許出願に図面が付いています。その理由は「百聞は一見に如かず」というだけあって、文章だけで説明するよりも図面を用いて説明した方が圧倒的に分かりやすいからです。

特許請求の範囲

 特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明を記載する書類です。特許が登録された場合、この特許請求の範囲に記載されている内容で特許権の範囲が決まります。そのため、特許請求の範囲は、特許権を規定する権利書とも言える重要な書類となります。

 特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許を特定する必要事項を記載します。そして、特許請求の範囲の記載は、明細書や図面に記載したものであることが必要であり、さらに、明確であることも求められます。

 特許請求の範囲には、例えば次のように記載します。

【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
 黒鉛の芯を有する軸と、
 前記軸の末端に取り付けられた消しゴムと
 を備える筆記具。
【請求項2】
 前記軸の前記末端に前記消しゴムを固定する円筒状の金具を、更に備える請求項1に記載の筆記具。

 
 特許請求の範囲の記載は、請求項ごとに「体言止め」で表現したり、先に登場したものと同じものを示す用語には「前記」を付けたり、といった特許業界独特のルールに従って記載する必要があります。はじめは違和感のある表現方法ですが、発明を正確に表現するためには欠かせないテクニックとなっています。

⑤要約書

 要約書は、公報に掲載するための発明の概要を400字以内で記載します。要約書の内容は、審査や特許権に影響しないため、他の特許出願書類とは違って神経質になる必要はありません。

【書類名】要約書
【要約】
【課題】書くペースを乱さずに筆記できる筆記具を提供する。
【解決手段】筆記具は、軸と、消しゴムとを備える。筆記具の軸は、黒鉛の芯を有する。筆記具の消しゴムは、軸の末端に取り付けられている。
【選択図】図1

特許申請の流れ3:特許出願

 特許出願書類が完成すれば、いよいよ特許庁に特許出願書類を提出します。この手続きを「特許出願」と呼びます。

 特許出願の手続き方法としては、「書面手続き」と「オンライン手続き」の2種類の方法があります。書面手続きでは、A4用紙で作成した特許出願書類一式を持ち込みや郵送で特許庁に提出します。オンライン手続きでは、電子データで作成した特許出願書類一式をインターネット経由で特許庁に提出します。現状では、書面手続きよりも圧倒的に便利で費用も安いオンライン手続きで特許出願するのが一般的です。

 特許出願では、特許出願料として14,000円を特許庁に納付する必要があります。書面手続きでは、特許印紙を願書に貼り付けて納付するのが一般的です。オンライン手続きでは、口座振替やクレジットカードの利用が便利です。

 特許出願が完了すると、特許庁では、その特許出願に対して「方式審査」が行われます。方式審査では、特許出願書類に形式的な不備がないかがチェックされます。方式審査で問題がない場合、特許庁からは特に何も通知されません。方式審査で問題がある場合、特許庁から「補正指令」などがあるため、「手続補正書」の提出などで不備の解消を図ります。

特許申請の流れ4:出願審査請求

 特許出願を行っただけでは、特許にふさわしいかどうか特許性を審査する「実体審査」が行われることはありません。その実態審査を特許庁に請求する手続きが「出願審査請求」です。

 出願審査請求は、特許出願から3年以内に手続きを行う必要があります。もちろん、特許出願後であれば、その日に出願審査請求できます。なお、3年以内に出願審査請求を行わないと、特許を取得することができなくなります。

出願審査請求を行うには、出願審査請求書を特許庁に提出します。出願審査請求書の提出は、特許出願の手続きと同様に、書面手続きやオンライン手続きで行います。

 出願審査請求では、出願審査請求料を特許庁に納付する必要があります。この出願審査請求料は、基本料138,000円「請求項の数」×4,000円を加えた合計金額となります。特許出願料と比べると高額な出願審査請求料ですが、中小企業であれば条件によって1/2~1/3に軽減することも可能です。

 特許庁では多くの特許出願が実体審査を待っている状態です。そのため、出願審査請求を行っても実体審査が行われるまでに1年程度かかってしまいます。この審査待ち期間を短縮する方法として、中小企業であれば「早期審査」という制度を利用できます。この早期審査を申請すれば、平均3カ月以内に実体審査が行われます。

特許申請の流れ5:拒絶対応

 実体審査において審査官の心証が特許できないとの判断である場合には、その理由である拒絶理由を通知する「拒絶理由通知書」が発行されます。この拒絶理由を解消するために拒絶理由通知書に対応する手続を、「拒絶対応」や「中間対応」、「中間処理」などと呼びます。

 拒絶理由通知書に対しては、その発送日から通常60日以内に「意見書」を提出して意見を述べることができます。さらに、必要であれば「手続補正書」を提出して明細書や特許請求の範囲などの特許出願書類を補正することもできます。意見書や手続補正書の提出は、特許出願の手続きと同様に、書面手続きやオンライン手続きで行います。

 また、意見書を提出する前に「審査官面接」を行うことが非常に有効です。審査官面接で審査官と直接的に意思疎通を図ることによって、円滑に拒絶理由を解消に導くことができる場面が多々あります。

 拒絶理由通知書に対して拒絶対応すると、再度、実体審査が行われます。その実態審査の結果、再度、拒絶理由通知書が発行される場合があります。2回目以降の拒絶理由通知書に対しても意見書などを提出して拒絶対応を行うことになります。

 強い特許を取るために戦略的に特許出願を行った場合、8割以上の特許出願に対して拒絶理由が通知される傾向にあります。でも安心してください。特許審査を通過するためのロジックを適切に施した明細書を特許出願時に提出し、特許実務に精通した弁理士に拒絶対応を任せておけば、ほとんどの拒絶理由については解消できるでしょう。

特許申請の流れ6:特許登録

 実際審査で特許すべきものであると判断された場合、審査結果として「特許査定」が発行されます。特許査定は「特許してもよい」との決定に過ぎず、その後に3年分の特許料を納付しなければ、特許として登録されません。

 特許査定に対しては、その送達日から通常30日以内3年分の特許料を納付する必要があります。特許料の納付を行うには、特許料納付書を特許庁に提出します。特許料納付書の提出は、特許出願の手続きと同様に、書面手続きやオンライン手続きで行います。

 3年分の特許料は、基本料6,300円「請求項の数」×600円を加えた合計金額となります。10年目までの特許料は、出願審査請求料と同様に、中小企業であれば条件によって1/2~1/3に軽減することも可能です。

 3年分の特許料が納付されると、数週間程度で特許権特許原簿に「設定の登録」されます。さらに数週間後に特許庁から「特許証」が届きます。

 特許権は、特許原簿に登録された登録日から発生し、4年目以降の特許料を納付することによって出願日から最長20年間存続させることが可能です。

まとめ

 以上説明したように、(1)アイデアの特定、(2)特許出願書類の作成、(3)特許出願、(4)出願審査請求、(5)拒絶対応、(6)特許登録、の6段階が特許申請の基本的な流れとなります。特許の申請には複雑な手続きや法的要件が存在するため、本記事では基本的な流れとポイントを解説しました。特許を取得するためには、正確な情報と専門家の助言を受けながら進めることが重要です。特許申請の基礎知識を身につけることで、特許制度を適切に活用し、アイデアの保護を行うための一歩を踏み出しましょう。

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