弁理士が教える特許実務Q&A「出願公開」

特許などの知的財産は会社の有用な資産、競争力の源泉です。そこで、社内に技術部、特許部、知財部などの専門部を設け、人員を配置して、社内での発明の発掘・創作活動、特許調査、特許出願、特許活用の検討などが、常時、専門的に行われていることが望ましいのですが、そのようにすることは簡単ではありません。

このような体制を構築することが簡単ではない企業の方には知的財産の専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

特許実務Q&Aでは、会社内に特許専門ご担当の方がいらっしゃらないような企業の方から弁理士が受けることのある質問をいくつか紹介し、その質問に回答する形式で特許実務を紹介します。

【 質 問 】
「特許出願を行うと特許出願した発明の内容が同業他社に知られてしまう」と聞いたことがあります。特許出願を行うとその内容はすぐに世の中の人に知られてしまうのでしょうか?

弁理士 林 崇朗

【 回 答 】
特許出願の内容は、すぐに知られてしまうわけではありませんが、出願日から1年6カ月後に公開されます。

今回のお問い合わせは特許出願公開に関するものです。特許庁は特許出願を受け付けると直ちに「受領書」を発行して特許出願番号と特許出願日を付与してくれます。特許出願番号はカレンダーイヤーごとに1番から付与されます。特許庁が2018年に受け付けた最初の特許出願には「特願2018-1」、100番目に受け付けた特許出願には「特願2018-100」という特許出願番号がそれぞれ付与されます。特許庁が受け付ける特許出願の数は毎年32万件程度になります。

特許庁は特許出願を受け付けた後1年6月(=18カ月)経過するまではその内容を秘密にして保持します。誰による、いかなる内容の特許出願を受け付けたのか秘密にしてくれます。

同一の発明については一日でも先の特許出願に特許が与えられます(先願主義(センガンシュギ)特許法第39条)。そこで、特許出願を行うと特許出願人は「先願の地位」を獲得できます。もしも、その後に、だれかが、同一内容の発明について特許出願してきても、その後からの特許出願を「同一の発明について後から行われた特許出願ですので特許は認められません」としてもらえる地位です。

特許出願人は、「当社はこの製品に採用した新技術について特許出願し、特許庁から特許出願番号『特願2018-○○○』の付与を受けています。」と宣伝できます。このときに、同業他社が、特許庁のJ-Plat Patに特許出願番号「特願2018-○○○」を入力して検索しても出願日から1年6月経過するまではいかなる情報も取得できません。

一方、出願日から1年6月経過すると、特許庁は、1年6月前に受け付けた特許出願の内容(特許請求されている発明を説明している文章、図面、特許出願人・発明者の情報(住所・名称・氏名))を公表します。この公表は、紙に印刷した特許出願公開公報として特許庁から発行され、また、インターネット上のJ-Plat Patに電子情報が掲載されることで行われます。電子情報でインターネット上に公表されますから、この後は、特許出願番号を用いてだけでなく、特許出願人の名称(例えば、同業他社の会社名など)や、発明を説明する技術用語などをキーワードに用いて特許出願の内容を検索できるようになります。

このように、「特許出願を行うとその内容はすぐに世の中の人に知られてしまう」わけではありませんが、出願日から1年6月経過すると特許出願の内容は世界中の人に知られるようになります。これを「特許出願公開」(特許法第64条)といいます。

なぜ出願日から1年6月で公開されてしまうのか?

「特許制度は、新しい技術を公開した者に対し、その代償として一定の期間、一定の条件の下に特許権という独占的な権利を付与し、他方、第三者に対してはこの公開された発明を利用する機会を与える(特許権の存続期間中においては権利者の許諾を得ることにより、また存続期間の経過後においては全く自由に)もの」です。「このように権利を付与された者と、その権利の制約を受ける第三者の利用との間に調和を求めつつ技術の進歩を図り、産業の発達に寄与していくもの」です(工業所有権法逐条解説 特許法第1条)。

その昔の日本では、特許出願の内容は特許庁で審査を受けて特許成立するものだけが公表されていました。この仕組みですと、どのような発明について特許出願が行われているのか特許出願人以外は知ることができません。このため、第三者の特許権成立が、突然、公示され、特許権侵害になるのを避けるため、自社が実施している技術内容を急きょ変更しなければならない事態になることが起こり得ます。いわゆる「サブマリン特許」です。これでは安定した企業活動を行うことが難しくなります。

また、同業他社が既に特許出願を行っている発明であることを把握できたならば別の方向に研究を進めることが可能であったのに、把握できないため、同業他社が特許出願済の発明内容について研究開発を続けていたという事態が起こり得ます。これは、一企業にとっても、また、日本の産業界全体でみても、重複した研究を行い、重複した投資を行っている、ということになります。

そこで、特許庁での審査を経て特許成立することになってからでなければ特許出願内容が公表されないことで生じる企業活動の不安定性や、重複研究、重複投資という弊害を除去する目的で、昭和45年(1970年)の特許法一部改正によって特許出願公開制度が採用されたのです。

「特許出願日から1年6月」とした理由は、その当時、世界で特許出願公開制度を採用していた国(当時の西ドイツなど)における出願公開が出願日から1年6月後に行われていたからなどとされています。

日本国特許庁では、特許出願日から1年6月経過した時点で、原則として、すべての特許出願について特許出願公開が行われることになっています。なお、特許出願日から1年6月経過するまでに審査請求や、早期審査の請求が行われることで審査が完了して特許権成立し、その内容を社会に公示する特許公報(=特許掲載公報)が発行されている場合や、出願公開前に特許出願が取下げ、放棄あるいは却下され又は拒絶査定が確定しているときなどでは、例外的に、特許出願公開が行われないことがあり得るとされています。

米国、中国、韓国、欧州諸国、等、世界の主要な国々、地域の特許庁では、いずれも、原則として、特許出願日から1年6月経過した時点で1年6月前に受け付けていた特許出願内容を公表する特許出願公開制度を採用しています。

「出願後ただちに」ではないとはいえ、「出願日から1年6月経過しただけで出願内容が世の中に知られてしまうのでは特許出願人に不利益なのではないか?」というご意見があるかもしれません。別の機会に、このようなご意見に関連しているご質問への回答を紹介します。

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投稿者プロフィール

HAYASHI Takaaki
HAYASHI Takaaki弁理士
特許や商標などの知的財産の専門家。特に半導体・自動車・遊技機の技術分野において実務経験が豊富。諸外国の知財実務にも精通しており、特にインドネシアに関しては知財以外のビジネス情報にも詳しい。