特許異議申立とは?手続きや効果について分かりやすく解説
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ライバルメーカーの会社名を特許出願人の検索キーワードにして特許庁のJ-Plat Patで検索したところ、特許権が成立し、特許公報が先月発行されたものを見つけました。この特許の内容は当業界で従来から行われていた技術で、特許権が付与されたのが間違いではないかと思います。何か対応したいのですが、どのようなことが可能でしょうか?
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発見した特許に対して、将来、特許無効審判が請求された際に特許庁での審理で利用してもらうべく特許庁へ情報提供を行う、特許の取り消しを求めて特許掲載公報発行後6カ月以内に特許異議申立を特許庁へ提出する、あるいは、特許を無効にすべきであるとして特許無効審判請求を特許庁へ提出する等の対応が可能です。
特許付与後の情報提供
特許権が成立した後であっても特許庁に対して情報提供することができます。特許権成立後の情報提供は、特許権成立後のいつでも行えます。特許権が成立する前に、特許庁での審査に利用してもらう目的で行う情報提供と同様に、誰でも提出可能です。また、特許庁へ提出する書類の「住所又は居所」、「氏名又は名称」の欄に「省略」と記載することで匿名で提出できます。
提出する情報は、特許権が成立する前に行う情報提供と同様に、特許権が成立した発明が新規性、進歩性、等の特許要件を満たしていないものであること等を主張する根拠になる書籍、等の刊行物の写し、特許出願公開公報、実験報告書などの証明書、インターネットに掲載されていた技術情報などになります。特許庁の審査に利用されていなかった可能性がある業界紙・誌、発行日を特定できる商品カタログなども技術情報として提出できます。
特許権成立後に情報提供が行われたことは特許庁のJ-Plat Patの経過情報-登録情報にアップされます。特許権者が権利行使を考慮するときには自己の特許権の状況を確認しますし、特許無効審判を請求しようとする第三者も特許権の状況を確認します。特許庁へ情報提供された技術文献の内容は書類閲覧を行うことで特許権者や、特許無効審判請求を検討している第三者の目に留まることになります。
情報提供された技術情報によって特許無効になる可能性が高いときには、特許権者は特許権の行使に慎重になると思われます。特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる場合、特許権者は権利行使できないとされているからです(特許法第104条の3 特許権者等の権利行使の制限)。また、第三者は、情報提供された技術情報を利用して特許無効審判請求に臨む可能性が出てきます。特許権成立後の情報提供にはこのような意義があります。
特許異議申立
上述した特許権成立後の情報提供から一歩踏み込んで、特許の取り消しを求めて、特許庁に再審査を求める特許異議申立を行うこともできます。特許異議申立も特許付与後の情報提供と同じく誰でも行うことができます。ただし、情報提供制度のように匿名で行うことはできません。
後述するように、特許異議申立が特許庁へ提出された後の審理は特許庁と特許権者との間で進められ、原則として書面審理になります。そこで、例えば、いわゆる、ダミーを立てて、真の申立人がわからないようにして特許異議申立を行うことも可能です。
特許公報発行後6カ月に限り提出可能
特許権が成立すると、特許庁は成立した特許権の内容を社会に公示するため特許掲載公報を発行します。特許出願公開公報と同様に紙で特許掲載公報が発行され、また、同時に、特許庁のJ-Plat Patでも公表されます。特許権成立から2~3週間で特許掲載公報が発行され、その後6カ月以内に限って特許異議申立を特許庁に提出できます。
特許取消決定になれば特許権は消滅
異議申立が提出されると特許庁では3人又は5人の審判官による合議体を構成して審理します。特許が成立するまでの審査では、拒絶査定不服審判を経ていない場合、審査官1人で審査しています。特許異議申立では審判官の合議体によって慎重で、的確な審理が行われることが期待されています。審理の結果、特許を取り消すべきとなった場合には特許取消決定が下されます。一方、特許を取り消すことはできないとなった場合には特許維持決定が下されます。
特許取消決定に不服がある特許権者は、知的財産高等裁判所に決定の取消を求める訴えを提起できます。一方、特許維持決定に対して異議申立人は不服を申し立てることができません。特許異議申立人は、同一の証拠、同一の理由で、あらためて、特許無効審判を請求し、特許庁の審理を受けることができるからです。
特許取消決定に対して不服を申し立てる道が無くなり、特許取消決定が確定したときには、特許無効審判請求で無効審決が確定した時と同じく、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます。なお、特許異議申立を審理した審判官合議体が「特許を取り消すべき」との判断になった場合には「特許取消理由」が特許権者に通知されます。特許権者は、新規性欠如・進歩性欠如、等が指摘される取消理由を解消する目的で、特許請求している発明の効力範囲を狭める「訂正請求」を行ったり取消理由に反論することができます。
異議申立を受けた特許権の10%程度が特許取消
近年では毎年18~19万件程度の特許権が成立し、特許掲載公報が発行されます。特許庁が公表しているデータによりますと、この中の0.6%程度に対して特許異議申立されているようです。特許庁が公表しているデータによれば、特許異議申立を受けた特許権の中の40%程度はそのまま維持され、45%程度は効力範囲を狭める訂正請求が行われて維持され、10%程度が取消決定となって消滅しているようです。10%程度しか取消決定確定になりませんが、異議申立を受けた特許権の中の45%程度は特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなる訂正が行われています。これらのケースの多くでは特許異議申立の目的が達成されているといえるのかもしれません。
さいごに
特許権成立後の情報提供も、特許異議申立も、国(特許庁)が独占排他権として成立を認めた特許に対するもので、慎重に進めることが望ましいです。詳しくは専門家である弁理士にお問い合わせください。
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