美容・健康機器メーカーのMTGは、同社の美容ローラーの特許権が侵害されたとして、ファイブスターに対し損害賠償金の支払いを求める控訴審が行われました。その結果、知的財産高等裁判所の大合議により、MTGの請求する損害賠償額が4億4,000万円と認められる判決が下されたことがMTGから発表されました。MTGは、2万円以上で販売していた美容ローラーが、ファイブスターによって3,000~5,000円で販売されるローラーによって特許権が侵害されたと主張していました。一審の判決では、損害額は約1億1千万円と認定されていました。

 特許権の侵害による損害賠償請求では、民法第709条に基づき、原告(特許権者)が損害額の立証責任を負担することとされています。ただし、特許法第102条には損害額算定に関する特例が定められており、損害の立証が困難な場合に利用されます。特許法では、侵害行為がなければ特許権者が販売できたであろう逸失利益を損害額と推定する(同条第1項)、侵害者の利益額を損害額と推定する(同条第2項)、または相当実施料額を損害額として請求することができる(同条第3項)と規定されています。

 特許法第102条第2項による損害額の算定では、従来から寄与率という考え方が採用されてきました。しかし、特許法第102条第1項を用いて損害額を推定する際に、寄与率をどのように位置づけるかについては、これまでさまざまな判決や学説が存在してきました。

 MTGは特許法第102条第1項に基づいて損害賠償請求を行いましたが、一審の判決では寄与率を考慮せずに「原告製品の単位数量当たりの利益額」を認定し、その後、寄与率(10%)を考慮して減額が行われ、損害額が算定されました。

 一方、知的財産高等裁判所の大合議判決では、特許の発明が原告製品の販売にどれだけ貢献しているかを考慮し、原告製品の限界利益の全額から60%の覆滅控除を行った後、「原告製品の単位数量当たりの利益額」を算定しました。この判決では、さらなる寄与率を考慮した減額については「認める根拠はない」として損害額を算定しました。

 特許法第102条における損害額の算定方法には、従来から寄与率の考え方がありましたが、この判決により寄与率の位置づけが明確化されました。今後の特許権侵害訴訟においては、知的財産高等裁判所の判断が参考となる可能性があります。

 MTGとファイブスターの間での特許権侵害訴訟は、特許法の規定や過去の判例を踏まえながら争われてきました。特許権者であるMTGが請求する損害賠償額が一部認められたことで、特許の保護と侵害行為の防止に関する重要な判断が示されたと言えます。特許保護を求める企業や特許権者にとっては、この判決が将来の特許権侵害訴訟における参考となるでしょう。

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