特許申請での拒絶理由対策:分割出願のメリットと戦略

特許庁から届いた審査結果(拒絶理由通知書)で、一部の発明について進歩性欠如との指摘を受け、残りの発明については「拒絶理由を発見しない」との指摘を受けました。特許権を早く成立させたいのですが、一方で、進歩性欠如という指摘を受けた発明については時間がかかっても特許取得を目指したいと考えています。なにか方法あるでしょうか?

「拒絶理由を発見しない」との指摘を受けた発明のみについて早期に特許権成立させ、一方、進歩性欠如との指摘を受けた発明については分割出願を行って、特許成立を目指して、もう一度、審査を受けることができます。

特許庁からの拒絶理由通知

 特許出願についての特許庁での審査の結果(拒絶理由通知書)では、特許請求の範囲に複数の発明が記載されている場合、複数の発明のそれぞれについて審査結果が示されます。例えば、特許請求の範囲に次のような2つの発明を記載していて、請求項1記載の発明に関しては、拒絶理由通知書で引用した先行技術文献記載の発明に基づいて、当業者が、容易に発明することができたので進歩性欠如、請求項2記載の発明に関しては「現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。」との指摘を受けることがあります。

【特許請求の範囲】

【請求項1】

 断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆。

【請求項2】

 前記軸の後端に消しゴムが付いている請求項1記載の鉛筆。

特許権の効力は各発明により広狭がある

 上述した請求項2の発明で特許成立した場合、他社が、「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆であって、前記軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆」を製造・販売しているならば、それを特許権侵害行為であるとして差止請求、損害賠償請求できることになります。

 一方、上述した請求項2の発明では特許権取得できたが、上述した請求項1記載の発明では特許権取得できなかった場合、他社が、「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆」を製造・販売する行為は特許権侵害でなく、自由に行えることになります。

「広い範囲」と「実施範囲」で特許取得

 このため、上述した拒絶理由通知書を受けた特許出願人が、ひとまずは、自社が既に行っている「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆であって、前記軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆」の製造・販売行為を自社の特許権で確実に保護すべく、請求項2の発明についてただちに特許権取得すると共に、請求項1の発明についても、今後の他社の動きをより効果的に抑制するために、引き続き、特許権取得を目指したい、と考えることがあります。

分割出願(特許法第44条)

 このような場合、上述した拒絶理由通知書への回答手続(意見書・手続補正書提出)で、審査を受ける発明を請求項2の発明のみにし、特許請求の範囲から削除した請求項1記載の発明について、分割出願を行って、あらためて審査を受けるようにすることができます。

 これによって、請求項2の発明についてはただちに「特許査定」を受け、1~3年分の特許料納付によって特許権が成立します。そこで、自社で製造・販売している「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆であって、前記軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆」に対して、特許権成立後は「特許第○○○○○○号」という特許表示を付けることができるようになります。

 また、分割出願を行った請求項1の「断面が六角形で、木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗った鉛筆」に関しては、分割出願を行った日ではなく、最初の特許出願の日を基準として特許性(新規性、進歩性など)についての審査を受け、特許庁審査官から上述した進歩性欠如という拒絶理由を受けたならば、今度は、腰を据えて反論を行って、審査官に再考を求め、特許権成立を目指すことができます。

 分割出願は新たな特許出願になりますので、特許出願料を特許庁に納付し、審査請求料を納付する審査請求手続を行わなければ審査を受けることができません。このように、費用の面では負担になりますが、特許出願人が実際に製造・販売している製品に関して一日でも早く特許権を成立させ、一方、他社を抑制できる、より効力範囲の広い特許権取得を目指す、という観点から、上述したような拒絶理由を受けた際に検討する余地があるものです。詳しくは専門家である弁理士にご相談ください。

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