特許申請における新規事項追加の重要性と手続きのポイントを解説

特許出願を終えた後に出願済の内容に対して新しい技術的な事項を追加することはできないということですが、
どのようなことが禁止されるのでしょうか?

「新規事項を追加する補正は拒絶理由、無効理由になります」とよく言われます。
どのようなものが「新規事項を追加する補正」とされるのか説明します。

特許出願後に出願内容を補正できる

 発明は概念的なものであり、特許出願の際に特許請求する発明を文章や図面で説明することは容易でありません。

 また、特許出願の内容は出願から18カ月後に出願公開公報やJ-Plat Patで社会に公表されることになります。

 そのため、特許出願の際に発明を説明するために提出していた文章や図面の内容を、特許出願後に一切補正できないことにすると、新規な発明を他者に先駆けて公開することに貢献する特許出願人や発明者の保護に欠けることになります。

 そこで、特許出願の際に発明を説明するために提出していた文章や図面の内容を、特許出願後に、補充・修正する補正が特許出願人に認められています。

補正後の内容で出願していたことにな

 補正が行われた場合、その補正はいつの時点からその効力が及ぶのか?が問題になります。

補正が行われた時点からのみ補正の効力が及ぶことになると、例えば、特許出願の審査段階で補正が行われるたびに、特許性を判断する時期を、補正が行われた時点に変更していては、手続きが非常に煩雑になってしまいます。

 そこで、特許法では、所定の要件を満たした補正の効力は特許出願の時点に遡及する、すなわち、特許出願の時点から補正後の内容で特許出願が行われていたとして取り扱われます。

新規事項を追加する補正はダメ!

 さきほど説明したように、特許出願書類の補正は出願時に遡って効力を発揮します。これを補正の遡及効といいます。

 一方、同一の発明について複数の特許出願が競合した場合、一日でも先に特許出願を行っていた者でなければ特許取得は認められません(先願主義 特許法第39条)。

 このため、特許出願後に提出された補正が、出願当初の明細書、特許請求の範囲や図面などの出願書類に記載した事項の範囲を超える内容を含む場合、出願当初の出願書類に記載されていなかった技術事項が追加された補正後の発明が、補正の遡及効によって、特許出願の時点から明細書に記載されていたとして取り扱われてしまうと、先願主義の原則に反することになります。

 そこで、特許出願人のために補正を許容する一方、先願主義の原則を実質的に確保し、第三者との利害の調整を図る目的で、明細書、特許請求の範囲や図面の補正については、出願当初の出願書類に記載された事項の範囲内においてしなければならない、すなわち、新規事項を追加する補正を行ってはならないとされています(特許法第17条の2第3項)。

新規事項を追加する補正は拒絶や無効の理由になってしまう

 補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かが判断されます。「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項です。

 補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである場合、その補正は、新規事項を追加する補正でなく、他方、補正が新たな技術的事項を導入するものである場合、その補正は、新規事項を追加する補正であって拒絶理由を受けることになります。審査の過程で審査官が気づかずに特許成立してしまった場合には特許無効の理由になります。

どのような補正が新規事項追加になるか

 特許審査基準に記載されている事例をいくつか紹介します。

A 当初明細書等に明示的に記載された事項にする補正:〇

 補正された事項が「当初明細書等に明示的に記載された事項」である場合には、その補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。

B 当初明細書等の記載から自明な事項にする補正:〇

 補正された事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」である場合には、当初明細書等に明示的な記載がなくても、その補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。

 補正された事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、当初明細書等の記載に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、補正された事項が当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項でなければなりません。

C 数値限定を追加又は変更する補正

(ア)その数値限定が新たな技術的事項を導入するものではない場合には許容されます。例えば、明細書(発明の詳細な説明)中に「望ましくは24~25℃」との数値限定が明示的に記載されている場合、その数値限定を請求項記載の発明(=特許請求する発明)に追加する補正は許容されます。24℃と25℃の実施例が記載されている場合は、そのことをもって直ちに「24~25℃」の数値限定を追加する補正が許されることになりません。

(イ)請求項(=特許請求する発明)に記載された数値範囲の上限や下限等の境界値を変更して新たな数値範囲とする補正は、
以下の(i)及び(ii)の両方を満たす場合、新たな技術的事項を導入するものではなく、許容されます。

 (i) 新たな数値範囲の境界値が当初明細書等に記載されている

 (ii) 新たな数値範囲が当初明細書等に記載された数値範囲に含まれている

D 発明の効果を追加する補正

 一般に、発明の効果を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものであって許容されません。しかし、当初明細書等に発明の構造、作用又は機能が明示的に記載されており、この記載から発明の効果が自明な事項である場合は、その発明の効果を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。

E 具体例を追加する補正

 一般に、発明の具体例を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものであるので許されません。例えば、複数の成分から成るゴム組成物に係る特許出願において、「特定の成分を追加することもできる」という情報を追加する補正は、一般に、許されません。

 同様に、当初明細書等において、特定の弾性支持体を開示することなく、弾性支持体を備えた装置が記載されていた場合において、「弾性支持体としてつるまきバネを使用することができる」という情報を追加する補正は、一般に、許されません。

さいごに

 特許出願を行った後、特許出願で提出した文章・図面に記載していなかった技術的事項を追加する補正を行うと「新規事項追加の補正である」ということで拒絶理由になり、また、特許権成立後に新規事項追加の補正が審査で見逃されていたことがわかると特許無効理由になります。そこで、特許出願の際の発明を説明する文章・図面は慎重に準備する必要があります。詳しくは専門家である弁理士にご相談ください。

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