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当社が新規に開発した発明品は技術的に新規であるだけでなく、その外観・形態がこれまでになかった特有のものになります。この外観・形態を保護することはできますか?

物品の見た目、外観・形態、いわゆるデザインと呼ばれるものですが、これを保護するものとして意匠法による意匠登録があります。
技術的な観点から創作の保護を図る特許と、物品の見た目、外観・形態の保護を図る意匠との関係を説明します。

創作の保護という観点で特許と共通する意匠

人間が頭の中で考え出した知的な情報であって、それを活用することによって財産的な価値が生み出される知的財産の中に、特許庁に出願・申請を行い、権利の付与を受けて保護される形式の特許権、実用新案権、意匠権、商標権があります。これらは総称して産業財産権と呼ばれます。

 何らかの技術的な課題が存在しているときに、これを解決する技術的な工夫・創作として発明が完成して特許出願により特許権取得を目指し、その発明が具現化された製品を市場に売り出す際に、その製品の見た目、外観・形態に特徴があるということで新製品の見た目、外観・形態を保護すべく意匠登録出願により意匠権取得を目指し、その売り出す新製品につけるネーミングを商標として保護すべく商標登録出願により商標権取得を目指すというのが産業財産権の最も典型的な活用例とされています。

 特許権で保護される発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」です。

 意匠権で保護される意匠は「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合等であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法第2条)ですが、意匠は創作を保護するという点で特許と共通していると考えられています。

 意匠登録、意匠権付与が創作を保護するものである、というのは、工業上利用することができる意匠の創作をした者が意匠登録を受けることができるとされていて、意匠登録出願の時点での新規性や、従来公知の意匠等に基づいて簡単・容易に創作できたものではないという程度の創作性が意匠登録を受けるために要求されている点からうかがえます(意匠法第3条)。

特許と意匠とによる複合的な保護

 特定の技術的な課題を解決できる発明を完成させたときに、その発明を製品に具現化すると見た目、外観・形態も従来になかった新規な見た目、外観・形態になる場合、特許出願を行って発明についての保護を求めるだけでなく、
意匠登録出願を行ってその新規な見た目、外観・形態についても保護を求めることがあります。

 特許庁は、物品の見た目、外観・形態であるデザインを保護する上で中心的な役割を果たす意匠制度の活用方法について具体的な事例に基づいて紹介する「事例から学ぶ意匠制度活用ガイド」を発行しています。このガイドの冒頭で、「ビジネスにおいて、一つの製品に関して、複数の知的財産権により複合的な保護を図ること(いわゆる『知的財産権ミックス』)で、技術、デザイン、ブランドの模倣に多面的に対抗することができるようになります。」として紹介されているものの一つに株式会社ワコールが所有している特許第4061336号(2007年12月28日登録 発明の名称:運動用衣類)と意匠登録第1324024号(2008年2月8日登録 意匠に係る物品:スポーツシャツ)があります。

 特許第4061336号は、2006年12月26日に日本国特許庁に日本語の国際出願で提出されました。翌年2月に日本国特許庁審査官が作成した「特許請求されている発明は新規性、進歩性を有している」という肯定的な国際調査報告を受け、2007年4月24日に日本国特許庁に審査請求しました。引き続いて、2007年7月27日に意匠登録第1324024号が出願され、同時に、第1324024号の「スポーツシャツ」に外観・形態が似ている「スポーツシャツ」の意匠登録出願が10件行われました。この10件の意匠出願はいずれも意匠登録第1324024号の関連意匠として意匠登録されています。上述の11件の意匠登録出願を行った後、前述したように審査請求していた特許第4061336号の出願について2007年11月21日に「早期審査事情説明書」を提出して早期審査を受け、1カ月後の12月18日に「特許査定」となり、特許料を納付して同年12月28日に特許権成立しています。

 特許は技術的思想の創作を保護するもので、その保護範囲は、特許請求の範囲に文章で表現されている発明によって確定されます。そこで、ある程度の広がりがある技術的範囲を1件の特許でおさえることが可能になります。

 一方、意匠は物品の見た目、外観・形態を保護するもので、見た目、外観・形態が多少でも異なると意匠権の効力が及ばなくなることがあります。

 前述の例で運動用衣類(スポーツシャツ)を特許権と意匠権とで複合的に保護するにあたり、特許権は1件で、意匠権は意匠登録第1324024号及びこれに外観・形態が似ている10件の関連意匠、合計11件の意匠登録が行われているのはこのためではないかと思われます。

特許出願から意匠出願への出願変更

 人間の頭の中で考え出された創作を保護するという点で共通していることから特許出願から意匠登録出願への出願変更が認められています(意匠法第13条)。特許出願を行う際に、特許請求している発明を具現化して市場に提供する新製品の外観・形態が既に決定されている場合、それを正面、背面、左・右側面、平面・底面から見た図や斜視図などを特許出願の図面に含めておくことができます。

 この特許出願の審査で最終的に「進歩性欠如、等」の理由で拒絶査定になったときに、特許権取得を断念して特許出願から意匠登録出願へ出願変更し、意匠登録を受けて意匠権で新製品の保護を図るものです。

 特許では技術的な面からの新規性、進歩性が要求されますが、意匠で要求されるのは見た目、外観・形態における新規性・創作の非容易性であることからこのようなことが可能になります。

新規な創作をどのように保護するか

 新規な創作を完成させた場合、それを特許で保護するか、意匠で保護するか、特許と意匠の双方で保護を図るか、いろいろな方法が可能です。専門家である弁理士にご相談ください。

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