当社が製造・販売している製品について「特許権侵害になるので製造・販売を中止してください」との警告書が届きました。どのようにすればよいのでしょうか?

特許権者は、特許権に基づいて特許発明を独占排他的に実施(例えば、製造、販売)することができ、特許権侵害行為に対して差止請求(特許法第100条)や損害賠償請求(民法第709条)を行うことが可能です。

警告書での告知はこれらの措置の前段と考えられますから、早急に、かつ、慎重に対応する必要があります。

警告書に記載されている事情の確認

 一般的に特許権侵害の警告書は、配達証明郵便・内容証明郵便で到着します。これらには特許公報を同封できません。特許公報は別途に書留郵便で送付されてくることがあります。

 警告書に記載されている特許番号や、送付されてくる特許公報などから、特許庁のJ-Plat Patを利用して特許権が現存しているものであるかどうか、警告書を送付してきた者が特許権に基づく権利行使できる者であるかどうか確認します。

 現存している特許権の特許権者あるいは専用実施権者でなければ、特許権に基づく権利行使はできません(特許法第68条、同第77条)。

特許権が設定登録されて特許公報が発行された後に、訂正審判請求の審決確定によって特許請求の範囲の記載が訂正されていたり、特許権の移転登録によって特許公報に記載されている特許権者とは異なる特許権者に変更されていることもあります。

そこで、必要であれば、訂正審判請求の確定審決公報や、特許原簿の謄本を特許庁から取り寄せて確認することがあります。

特許権侵害事実の確認

 警告書で指摘を受けた当社製品(以下「侵害被疑品」といいます)が特許権の効力が及ぶ範囲、すなわち、特許発明の技術的範囲に属するか否かを検討します。警告書を送付してきた特許権者が侵害被疑品を特許権侵害品であると考える理由は、一般的に、特許発明と侵害被疑品とを対比して警告書で説明されています。しかし、特許権者は自己の特許権の効力が及ぶ範囲を広めに解釈することがありますし、特許権者が誤解していることもあります。

 特許権侵害は、侵害被疑品が特許発明の構成要素を全部実施しているときに成立するのが原則です。なお、特許発明の構成要素を全部実施していない場合であっても、均等の範囲になる場合には特許権侵害が成立することがあります。侵害被疑品を特許公報に記載されている特許発明の内容と照らし合わせて慎重に検討する必要があります。侵害被疑品が特許権侵害品に該当するのか否かは専門的な事項になります。この分野の専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

 その際、侵害被疑品そのものを持参する等、侵害被疑品に関するできるだけ多くの情報を持参することが望ましいです。例えば、侵害被疑品の開発の経緯、侵害被疑品をいつ頃から製造・販売しているのか等の情報や、侵害被疑品や警告書を送付してきた特許権者の製品が市場において同業他社や、消費者・需要者からどのように評価されているか等の情報は、警告書への対応を検討する上で有用です。

 検討の結果、特許権者の誤解であって、明らかに特許権侵害にならないと判断できたときには、警告書に対して、その旨の回答を行うことになります。

先使用権の検討

 侵害被疑品が特許権侵害品に相当すると判断できる場合でも、警告書で指摘されている特許権の特許出願が行われる前から侵害被疑品を製造・販売開始し、今日までその事業を継続しているならば、先使用権(特許法第79条)が成立し、侵害被疑品の製造・販売を継続できることがあります。そこで、先使用権が成立する事情がないか検討します。

設計変更

 侵害被疑品が特許権侵害品に相当すると判断でき、なおかつ、先使用権も成立しない場合、侵害被疑品を特許権侵害にならないように設計変更することが検討事項の一つになります。設計変更することで特許権侵害を避けることができるならば、設計変更以降に関しては特許権者から追及を受けることがなくなります。

 ただし、この場合、設計変更までの実施行為(侵害被疑品の製造・販売)が特許権侵害であるならば、これについてどのように解決を図るか特許権者と交渉する必要が生じます。例えば、設計変更によって特許権侵害が解消されることを特許権者に確認してもらった上で、設計変更前の実施行為に関して実施料相当額の解決金を支払って事態を解決することがあります。

実施許諾を受ける

 侵害被疑品が特許権侵害品に相当すると判断でき、なおかつ、先使用権が成立せず、侵害被疑品を特許権侵害にならないように設計変更することが困難であるが、侵害被疑品の製造・販売行為を継続する必要があるときには、通常実施権などの許諾を受けて侵害被疑品の製造・販売行為を継続するべく、特許権者と交渉する道があります。

無効の抗弁

 侵害被疑品は特許権侵害に該当しないと判断できるような場合でも、かなり微妙で、特許権者が差止請求訴訟に臨んでくる可能性が考えられるような場合には、特許を無効にする証拠や資料の収集を進めます。特許が特許庁で行われる特許無効審判で無効にされるべきものと認められるときには特許権者・専用実施権者はその権利を行使できないことになっています(特許法第104条の3)。特許を無効にする証拠や資料の収集を進めて特許庁へ特許無効審判請求を提出したり、特許権者から特許権侵害差止請求訴訟の提起を受けた際に裁判所において無効の抗弁(特許法第104条の3)を行うことができます。特許を無効にする証拠や資料の収集は、特許出願公開公報、特許公報などを調査するだけでなく、市販されている書物、業界紙・誌、発行日を確認できる製品カタログ、等々についての調査、収集も行うことが望ましいです。これらの資料は特許庁での審査で利用されていないことがあり得るからです。

警告書で要請された期限までに誠実に回答する

 特許権者は、特許権に基づいて特許権侵害差止請求訴訟や特許権侵害損害賠償請求訴訟を裁判所に提起することが可能です。警告書を受け取ったにもかかわらず対応を放置していれば、特許権者が訴訟に臨むことが考えられ、警告書送付後の経緯は裁判の中で明らかにされますから、裁判所の心証形成の上で有利では無くなります。また、警告書を送付してきた特許権者が裁判所に証拠保全を申し立て、これが認められて、突然、裁判所執行官が会社や工場に証拠保全にやってくることもあり得ます。

 そこで、警告書の送付を受けたならば、たとえ、「明らかに特許権侵害にならない」と考える場合でも、回答要請された期限までに誠実に回答を行うことが望ましいです。警告書到達後2週間以内に回答するよう要請されることが多いですが、特許権侵害に相当するのか否か検討に時間を要しているならば、ひとまずその旨を回答し、慎重な検討を行った後、速やかに回答することが望ましいです。

 いずれにしても、特許権侵害の警告書を受けた後は、裁判所での特許権侵害差止請求訴訟につながる可能性がありますから、弁理士など、この道の専門家に早急に相談して対応を検討することが必要です。

<特許出願(特許申請)の基礎知識>

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