特許出願では出願手続と別個に審査請求という手続を行わないと特許庁での審査が開始されないと聞いています。審査請求をいつ行えばよいのか、審査請求するタイミングの検討にあたって考慮すべき要素としてどのようなものがあるか教えてください。

審査請求するタイミングを検討する際のいくつかの考慮要素について説明します。

審査請求を行える期間

 特許出願日から3年以内のいつでも審査請求できます。そこで、特許出願と同時に審査請求することができますし、特許出願日から3年目ぎりぎりの日に審査請求することもできます。そして、出願日から3年以内に審査請求しなければ特許出願は消滅し、その後に復活させて審査を受ける状態に戻すことはできません。どのタイミングで審査請求するか、なによりも、この審査請求を行うことのできる期間を考慮していなければなりません。

特許出願した発明についての改良

 特許出願した発明については出願後にも様々な改良、改善が加えられます。特許出願後に研究・技術開発を続けて改良発明が完成した場合であって、改良発明の完成が特許出願後1年以内であるならば、1年以内前の先の特許出願の内容に改良発明を追加した新たな特許出願(「優先権主張出願」といいます)に乗り換えることが可能です。優先権主張出願の中には優先権主張の基礎にしている先の特許出願の内容が全部取り込まれます。そして、優先権主張出願について審査を受けるときに、優先権主張出願で追加した改良発明については、優先権主張出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されます。一方、優先権主張の基礎にしていた先の特許出願に記載されていた発明については、優先権主張出願の日ではなく、優先権主張の基礎にした先の特許出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されるという優先的な取扱いを受けます。このため、優先権主張の基礎にした先の特許出願を残しておく意義はなく、優先権主張出願を行いますと優先権主張の基礎になった先の特許出願は「取り下げたものと見なされ」消滅します。

 優先権主張出願を行うことができるのは最初の特許出願の日から1年以内に限られています。1年を経過した後は、その改良発明について、独自に特許出願を行う意義があるかどうかを検討することになります。 最初の特許出願の日から1年以内であれば、その後に誕生した改良発明を含めた優先権主張出願に乗り換えることが可能で、優先権主張出願を行うと優先権主張の基礎になった先の特許出願は上述したように消滅します。

 そこで、最初の特許出願から1年間程度は、特許出願した発明についての改良、改善の進展具合が、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

審査請求後、審査結果が確定するまでの期間

 特許庁から審査結果を受け取ることができるのは、一般的には、審査請求後11か月程度経過した頃です。審査の結果、拒絶理由通知を受けると60日以内であれば意見書・補正書を提出して反論し、審査官に再考を求めることができます。意見書・補正書提出で「拒絶理由は解消し、その他の拒絶理由も発見できない」あるいは、「拒絶理由は解消していない」と、直ちに、審査官が判断できる場合には、意見書・補正書提出後1~2カ月で「特許査定」あるいは、「拒絶査定」という審査官の最終判断を受けます。なお、意見書・補正書提出により、「拒絶理由は解消しているように思われるので直ちに拒絶査定にすることはできないと思われるが、はたして、その判断でよいのだろうか」と、審査官が更なる調査、審査に進むようになった場合、上述した「特許査定」、「拒絶査定」、あるいは、2度目の「拒絶理由」通知を受けるのは、意見書・補正書を提出してから1年程度後になることがあります。

 早期審査

 審査請求と同時に「早期審査の事情説明書」を提出すれば、審査請求後3~4か月程度経過した頃に審査結果(拒絶理由通知あるいは、特許査定)を受け取ることができます。審査請求してからどの程度の期間で審査結果を特許庁から受け取ることができるかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

特許出願の内容が特許庁から公表される時期

 特許庁は特許出願を受け付けると直ちに特許出願番号と特許出願日を付与します。これによって、同一の発明については最も先に特許出願を行っていた者が特許を受け得るという先願の地位(特許法第39条)を確保できます。その後、特許庁は、受け付けた特許出願の内容を秘密に保持してくれます。この時点では、だれも特許出願の内容を見ることができません。

 一方、特許出願日から18カ月が経過しますと、特許出願の内容が、発明者、特許出願人に関する情報も含めて、特許庁から発行される特許出願公開公報に掲載され、同時に、特許庁のウェブサイトJ-Plat Patで世界中に公表されます。このため、特許出願後18カ月経過するまでは、特許出願した発明の実施品に「特許出願済」、「特許出願中」という表示を付けていても、どのような技術内容について特許取得が目指されているのか、同業他社は知ることができません。一方、特許出願日から18カ月経過して上述したように出願公開が行われますと特許出願の内容が同業他社に知られることになります。

 そこで、この出願公開の時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

第三者による特許庁への刊行物提出

 特許出願公開によって特許出願の内容が社会に公表されると、「その発明について特許成立しては困る」等と考える同業他社などが、「この特許出願について審査を行う際に、特許出願前に世の中に公表されていたこれらの文献、等に記載されている情報を利用してください」ということで、特許庁に対して、匿名で、刊行物提出することがあります。刊行物提出が行われたことは、直ちに、特許庁から特許出願人に通知され、特許出願人は、提出された刊行物の内容を入手・確認できます。「刊行物提出」が行われるということは、その特許出願に特許権が成立すると困る、すなわち、「特許権侵害であるとして追及される可能性がある」等と考える同業他社が存在していることになります。

 そこで、特許出願公開が行われた後の自社の特許出願に対して「刊行物提出」があるかどうかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

特許出願した発明を製品(商品)として市場に投入する時期

 先願主義(特許法第39条)の下、一日でも先を争って特許出願しますから、特許出願した発明を、製品(商品)化して市場に投入できるかどうか、特許出願の時点では未定であることがあります。結果的に、出願日から3年経過する時点でも製品(商品)化のめどが立たず、審査請求しないで特許出願を消滅させることが起こり得ます。なお、審査請求を行わずに特許出願を消滅させても、特許出願が行われていたという事実と、その出願内容が上述した特許出願公開によって世界中に公表されているという事実は残ります。特許出願した発明が実施化されている商品を市場に提供する際に特許成立していれば「特許第〇〇〇号」という特許表示を付けることが可能になります。また、審査の結果、特許成立しない場合であっても、進歩性欠如という理由で特許成立しないならば、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供したときに第三者の特許権を侵害する可能性は大きくないことを確認できます。

 そこで、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供する時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

同業他社による実施の動向

 自社の特許出願に成立した特許権に基づいて同業他社の行為に対して権利行使できるのは、特許庁での審査を受けて特許権が成立した後になります。そこで、自社で特許出願済の発明を実施化したと思われる商品や、自社で特許出願済の発明に特許権が成立したならば「特許権侵害品になりますから製造・販売を中止してください」と権利行使できるのではないかと思われるような商品が同業他社から市場に投入された場合であって、まだ審査請求していないならば審査請求することがあります。特許権成立するものであるかどうか、特許権成立する場合に特許権に基づく権利行使が可能になるかどうか特許庁の判断を受けるべく審査請求するものです。

 このように、同業他社による実施の動向は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

むすび

 特許庁が公表しているデータによれば、特許庁が受け付ける特許出願の数は年間31万件程度で、発明の技術分野によって相違しますが、この中の20~30%程度は出願日から3年の間に審査請求しないで消滅し、審査請求されたものの中の70~80%程度に特許成立しています。特許出願後3年以内であればいつ行ってもよいとされている審査請求を行うタイミングについては、上述したようにいくつかの考慮要素があります。詳しくは専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

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