特許申請における進歩性の拒絶理由に対する成功パターン:強力な反論戦略のヒント
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特許出願について特許庁で審査を受けたところ、拒絶理由に引用された文献(先行技術文献)に記載されている発明に基づいて容易に発明できるものであるから特許を認めることができないという拒絶理由を受けました。反論して審査官に再考を求めることができるということなのですが、どのように反論を準備すればよいでしょうか?
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進歩性が欠如しているという拒絶理由を受けた場合に、審査官に再考を求めるべく提出する意見書、手続補正書の内容をどのように準備するか、一般的な例を紹介します。
進歩性欠如を指摘する拒絶理由の一般的な形式
進歩性欠如の拒絶理由通知は、一般的に、次のような構成になります。
- 審査を受けている本件特許出願(「本願」)の特許請求の範囲の各請求項に記載されている発明(「本願発明」)と対比する発明(引用発明)が記載されている先行技術文献(第一引用例)の指摘。
- 第一引用例記載の発明(引用発明)と本願発明との間に存在していると審査官が認定する一致点と相違点の指摘。
- 上述した相違点が記載されていると審査官が認定する他の先行技術文献(第二引用例)の指摘
- 本願発明の技術分野では第一引用例に第二引用例を組み合わせることが容易であるとの指摘。
- 第一引用例記載の発明に第二引用例記載の発明を組み合わせると前述した相違点が解消されて本願発明に容易に想到することができ、本願発明は進歩性が欠如している、という指摘。
特許請求している発明の確認
拒絶理由通知書を受けたときには、もう一度、本願の明細書、図面を読み直して、本願発明の内容を確認することをお勧めします。いきなり第一引用例、第二引用例を検討し、本願発明と相違している点はどこであるかを探したり、第一引用例、第二引用例に記載されている発明内容を前提とした上で、第一引用例、第二引用例記載の発明と異なるように本願発明の内容を考えるのは望ましくありません。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明です。これがどのようなものであるか、本願の明細書、図面の記載内容に立ち返って確認した上で拒絶理由の指摘を検討するのがよいです。
引用文献記載の発明の確認
第一引用例の内容を検討します。本願発明と一致しているところはどのような内容であるかという観点から検討します。本願発明と対比して第一引用例にどのような発明(引用発明)が記載されているか、本願発明との間の一致点として拒絶理由通知書で指摘されているのが一般的です。
しかし、拒絶理由通知書の指摘が正しいとは限りません。
本願発明と相違しているところはどこか?という観点から、第一引用例の内容を検討するのではなく、第一引用例に記載されている発明であって、本願発明と一致しているところはどのようなところであるか、という観点から検討します。あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明ですから、本願発明から見て、第一引用例には本願発明のどの部分と一致している発明が記載されているか、という観点で、本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認します。
相違点の確認
上述した観点で本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認した後、再度、本願の明細書、図面に立ち返り、第一引用例に記載されている発明であって本願発明と一致している部分以外のところ、すなわち、本願発明が、第一引用例記載の発明と相違している点を確認します。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明です。上述した観点で確認した本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点以外のところ、すなわち、本願発明が第一引用例記載の発明と相違している点を、本願の明細書、図面に立ち返って、確認します。
その際、相違点が明確になるように本願発明の記載内容を、出願時の明細書・図面の記載内容に基づいて補正する必要も検討します。補正することで、第一引用例に記載されている発明との相違点を明確にすることができれば、「進歩性欠如」という拒絶理由の指摘を解消できる可能性が高まります。なお、補正する場合、特許出願の時点で特許取得を目指していた本願発明の実施形式が、拒絶理由を受けた時点(あるいは、この審査を受けた結果で特許成立する時点)でどのようになっているかを把握し、会社の事業で実施している形態を確実に保護できる内容で特許取得することを考えながら補正内容を検討することが望ましいです。
第二引用例の発明内容の確認
次に、第二引用例に記載されている発明内容を確認します。拒絶理由通知書では、審査官が認定した本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点に対応する発明が
第二引用例に記載されていると指摘されるのが一般的です。
しかし、上述した観点で本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認した後、こうして確認できた本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点以外のところ、すなわち、本願発明が第一引用例記載の発明と相違している点を本願の明細書、図面の記載に基づいて確認しています。
そこで、この検討で確認した、本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されているかどうか検討します。本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されていないならば、拒絶理由通知書で指摘されたように、たとえ、第一引用例記載の発明に、第二引用例記載の発明内容を組み合わせることができても、本願発明には、容易に想到できないことになります。この点を意見書で主張できます。
第二引用例を第一引用例に組み合わせる論理付け
本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されていると認められる場合であっても、以下のような事情などがある場合には、「第一引用例記載の発明に第二引用例記載の発明を組み合わせることで本願発明に容易に想到できるため進歩性が欠如する」という拒絶理由通知書の指摘は妥当でないとして意見書で主張することができます。
事情1.第一引用例記載の発明が解決しようとしている課題と、第二引用例記載の発明が解決しようとしている課題とが相違している。 そのため、第一引用例記載の発明が目指している方向と、第二引用例記載の発明が目指している方向とが相違しているので、第二引用例を第一引用例に組み合わせる契機、起因が存在しない。
事情2.第一引用例の記載の中に、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせるきっかけになるような記載が存在していない。 そのため、両者を組み合わせる契機、起因となる記載が第一引用例、第二引用例の中に無いので、第二引引用例を第一引用例に組み合わせる契機、起因が存在しない。
事情3.第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせると、第一引用例記載の発明の目的が達成できなくなる等の事情がある。 そのため、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせることを阻害する事情が存在している。
相違点の存在による本願発明特有の効果の確認
上述したようにして本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点を確認しています。この相違点が存在することによって発揮される本願発明特有の機能・作用・効果を本願の明細書、図面の記載の中から把握します。相違点が存在することによって発揮される本願発明特有の機能・作用・効果が存在するならば、本願発明に進歩性が存在する、すなわち、第一引用例、第二引用例の組み合わせによって本願発明に容易に想到することができたとする論理付けは成立しない、という主張の根拠になります。
相違点の存在によって発揮される本願発明特有の効果が第一引用例、第二引用例記載の発明によって発揮される効果とは異質の効果である、あるいは同質の効果であるが際立って優れた効果である場合には、そのような事情を説明して「第一引用例、第二引用例の組み合わせによって本願発明に容易に想到することができたとする論理付けは成立せず、
本願発明は第一引用例、第二引用例記載の発明に対して進歩性を有する」と意見書で主張することができます。
面接審査の検討
上述した検討を行って、審査官に再考を求める意見書・手続補正書を準備し、特許庁へ提出する前に、拒絶理由を通知してきた特許庁審査官に面接審査を申し込むこともできます。特許庁では特許出願人の代理人(弁理士)等からの申込みがあれば、原則、一回は面接を受諾する取扱いにしています。拒絶理由通知書も、これに対応して提出する意見書・手続補正書も書面です。書面化された文章だけでは十分に説明することのできなかった事項を口頭で説明できる面接審査は、審査官が指摘したいと考えている拒絶理由の内容をより正しく理解し、また、本願発明をより正確に審査官に把握してもらうよい機会です。
そこで、必要があれば、代理人(弁理士)に依頼して担当審査官との面接を行うよう調整してもらうのはよい方法です。なお、拒絶理由通知書に対して回答できる期限(拒絶理由通知書発送日から60日以内)を考慮して日程的に余裕をもって面接審査を申し込むことが望ましいといえます。
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