弁理士が教える特許実務Q&A「特許庁への情報提供」

特許などの知的財産は会社の有用な資産、競争力の源泉です。そこで、社内に技術部、特許部、知財部などの専門部を設け、人員を配置して、社内での発明の発掘・創作活動、特許調査、特許出願、特許活用の検討などが、常時、専門的に行われていることが望ましいのですが、そのようにすることは簡単ではありません。

このような体制を構築することが簡単ではない企業の方には知的財産の専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

特許実務Q&Aでは、会社内に特許専門ご担当の方がいらっしゃらないような企業の方から弁理士が受けることのある質問をいくつか紹介し、その質問に回答する形式で特許実務を紹介します。

【質 問】
特許調査でライバルメーカーが行っている特許出願を発見しました。
この特許出願で特許請求されている発明は当業界では従来から行っていたことの延長線上にあるものなので、特許は成立しないのではないかと思います。
ライバルメーカーの特許出願に特許成立することを阻止する目的で何かできることはありますか?

弁理士 林 崇朗

【回 答】
発見した特許出願に特許成立することを阻止する目的で特許庁の審査に利用してもらうことを求めて先行技術文献などを提出できます。特許出願に対する情報提供になります。

刊行物提出

特許出願で特許請求されている発明が、新規性、進歩性などの特許性を備えていないと思われる、等の事情について、特許庁に情報提供することができます(特許法施行規則第13条の2)。一般的に、特許出願で特許請求されている発明の新規性や進歩性などを否定する根拠になると思われる先行技術文献を提出する手続で「刊行物提出」と呼ばれます。

特許庁によりますと、近年、刊行物提出件数は、年間7千件前後で推移し、刊行物提出を受けた案件の73%において、提出された文献等を拒絶理由通知中で引用文献等として利用しているとのことです。

情報提供できる人

何人も刊行物提出できます。なお、特許庁へ提出する「刊行物提出書」における「提出者」の欄の「氏名又は名称」、「住所又は居所」に「省略」と記載することで、匿名で刊行物提出を行うことができます。

情報提供の対象となる特許出願

特許庁に係属している特許出願に対して刊行物提出できます。特許庁の審査で拒絶査定が確定した等で特許庁に係属しなくなった特許出願に対しては刊行物提出できません。なお、対象の特許出願に審査請求が行われているかどうかに関係なく刊行物提出を行うことができます。

刊行物提出は提出する刊行物を特許庁での審査に利用してもらう目的で行うものです。そこで、J-Plat Patでの検索で、審査請求が行われているが審査請求後数カ月しか経過しておらず、まだ特許庁審査官が審査に着手していないと思われるような特許出願や、まだ審査請求が行われていない特許出願に対して刊行物提出を行うのが一般的です。

提出することができる情報

対象出願で特許請求している発明(=「特許請求の範囲」の請求項に記載されている発明)が、新規性、進歩性欠如により特許を受けることができない旨の情報(特許出願前に頒布されていた刊行物、インターネットを通じて公衆に利用可能となった情報、等)を提出できます。

特許出願の技術分野に関係している業界内で頒布されている雑誌などの刊行物は特許庁が収集している先行技術情報の中に含まれていないことがあります。そこで、J-Plat Patの検索で発見した先行技術文献(特許出願公開公報、等)だけでなく、雑誌や、業界紙・誌、発行日を確定できる宣伝・広告物なども刊行物提出で提出することがあります。

提供された情報の取扱い

審査官は、提供された刊行物については、原則、その内容を確認し、審査において有効活用を図ることになっています。なお、特許出願の審査は職権探知主義になっていて、審査を受けている発明が拒絶理由を有するものであるかどうかは職権で調査すべき事項になります。

そこで、刊行物提出が行われた場合に、提出された刊行物の記載によって審査している発明に対して新規性・進歩性欠如の拒絶理由があると認められた場合に審査官がその旨の拒絶理由を通知するのは当然ですが、刊行物提出が行われた場合であっても、審査している発明の新規性、進歩性を検討・判断するために必要な先行技術調査が通常の審査の場合と同様に行われます。

そこで、刊行物提出で提出された刊行物で新規性欠如・進歩性欠如の拒絶理由を構成できない場合であっても、審査官が独自に行った先行技術調査の結果に基づいて新規性欠如、進歩性欠如の拒絶理由が通知されることがあります。

特許出願人への通知

刊行物提出があった事実は特許出願人に通知されます。刊行物提出で特許庁に提出された刊行物は、特許庁から閲覧に供せられ、誰でもが閲覧申請を行うことで内容を知ることができます。特許出願人も刊行物提出があった旨の通知を特許庁から受けた後、閲覧申請を行って、提出された刊行物の内容を把握、確認できます。

特許出願人が審査請求を行う前に刊行物提出が行われ、特許出願人がその内容を把握、確認して、「これでは、審査を受けても新規性、進歩性欠如と判断されて特許取得を望むことができない」と判断した場合には、期限(出願日から3年)までに審査請求を行わず、特許出願が取り下げ擬制によって消滅することもあり得ます。

しかし、一般的には、提出された刊行物以外の情報についても調査、審査を行ってその結果が拒絶理由として特許庁から通知されるのを待つことになると思われます。

情報提供者へのフィードバック

刊行物提出で提出した刊行物の利用状況については、提出者が希望することで特許庁からフィードバックを受けることができます。この場合は、刊行物等提出書にその旨を記載することになります。

なお、これは利用状況を確認できるだけのものです。提出した刊行物を審査官が新規性・進歩性欠如の拒絶理由に利用し、その旨の拒絶理由を通知したことに対して特許出願人が拒絶理由解消の目的で提出した意見書・補正書の内容に関して何らかの意見申し立てを行うことはできません。あくまでも、審査に利用してもらう先行技術文献としての刊行物提出を行えるだけです。

現状では、J-Plat Patで「経過情報」を確認することで、提出した刊行物が拒絶理由に利用されたかどうかを簡単に確認できます。

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投稿者プロフィール

HAYASHI Takaaki
HAYASHI Takaaki弁理士
特許や商標などの知的財産の専門家。特に半導体・自動車・遊技機の技術分野において実務経験が豊富。諸外国の知財実務にも精通しており、特にインドネシアに関しては知財以外のビジネス情報にも詳しい。