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特許庁で審査を受けて拒絶理由通知書を受けました。最後に<拒絶の理由を発見しない請求項>という欄の記載があります。 これは何なのでしょうか?
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特許出願に審査を受けて特許庁審査官から受ける拒絶理由通知書の最後には、<拒絶の理由を発見しない請求項>という欄が設けられていて、例えば、「請求項2に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。」のように記載されていることがあります。このようなときの対応について説明します。
特許請求の範囲には複数の発明を記載できる
特許出願では、特許請求の範囲に特許権取得を希望する発明を記載し、明細書に(必要な場合には図面を利用して)特許権取得を希望する発明を、当業者が実施、再現できるように明確かつ十分に記載します。特許請求の範囲には複数の請求項を設けて複数の発明について審査を受けることができます。
特許庁がホームページで公表している「2020年度 知的財産権制度入門テキスト」第2章 産業財産権の概要 第1節 特許制度の概要には「鉛筆」の発明を用いて特許権の効力、特許発明の技術的範囲を説明している項があります。ここでの説明を参照した特許請求の範囲の記載としては次のようなものが考えられます。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が六角形の木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗ったことを特徴とする鉛筆。
【請求項2】
消しゴム付きであることを特徴とする請求項1記載の鉛筆。
請求項1の発明で特許成立すれば、「断面が六角形」の「木製の軸」で「軸の表面に塗料を塗った」鉛筆であれば、すべて特許権の効力範囲に入って、第三者による実施(製造、販売)行為を、特許権侵害として排除可能になります。
一方、請求項1の発明では特許成立せず、請求項2の発明のみで特許成立した場合には、「断面が六角形」の「木製の軸」で「軸の表面に塗料を塗った」ものであって、なおかつ「消しゴム付き」の鉛筆だけが特許権の効力範囲に入ることになります。 この場合、第三者が「断面が六角形」の「木製の軸」で「軸の表面に塗料を塗った」鉛筆を製造、販売していても、それを「特許権侵害」として排除することはできません。
上述の例では、請求項1の発明の方が請求項2の発明よりも効力範囲が広いわけですから、請求項1の発明のみを特許請求の範囲に記載しておいて審査を受けることもできます。
しかし、「進歩性欠如で特許を認めることができない」等の拒絶理由を受けて解消を目指す際に、明細書、図面の記載に基づいて特許権の効力が及ぶ範囲をどこまで狭めれば拒絶理由解消可能になるのか判断するのは簡単ではありません。
そこで、特許請求の範囲の請求項1に最も上位概念の発明、すなわち、他社の実施行為に対して「特許権侵害です」と追及できる効力範囲が最も広い発明を記載し、請求項1を引用する形式の請求項2に請求項1よりも下位概念で請求項1よりも効力範囲が狭い発明を記載する等して、特許請求の範囲に複数の発明(請求項)を記載して特許出願するのが一般的です。
「拒絶理由を発見しない」との指摘を受ける場合
特許請求の範囲に記載されている複数の発明が「発明の単一性」等の要件を満たしていれば、特許請求の範囲に記載されている複数の発明それぞれについて審査が行われ、特許請求の範囲に記載しているすべての請求項に係る発明についての審査結果が拒絶理由通知書で通知されてきます。この際、より効力範囲が広い請求項1記載の発明の方が、効力範囲が狭い請求項2記載の発明よりも「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由を受ける可能性が大きくなるのが一般的です。
例えば、上述の例で、特許庁の審査における調査で「断面が六角形の木製の軸を有する鉛筆」の発明が記載されている先行技術文献1と、「断面が円形の木製の軸を有し、その断面円形の軸の表面に塗料が塗られている鉛筆」の発明が記載されている先行技術文献2とが発見されたが、鉛筆に消しゴムを付属することが記載されている先行技術文献や、
鉛筆に消しゴムを付属させることを発想するきっかけになると思われる記載が存在している先行技術文献を発見することはできなかったとします。
この場合、請求項1記載の発明については、先行技術文献1、2に記載されている発明を組み合わせることで、当業者が、簡単、容易に発明できたという論理付けで進歩性欠如の拒絶理由が成立するが、請求項2記載の発明については拒絶理由を発見できない、ということになります。 このような場合に拒絶理由通知書の最後に<拒絶の理由を発見しない請求項>という項が設けられて上述した記載が行われます。
特許出願人の取り得る対応
①補正を行わないで意見書のみ提出する
上記で説明した事例のような場合には難しいですが、請求項1の発明に対する「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由の論理付けが妥当性を欠いていると思われることがあります。このようなときには、より広い効力範囲での特許取得を目指して、審査を受けていた請求項1、2の状態のままで特許請求の範囲を補正せず、意見書を提出して、拒絶理由の論理付けが妥当性を欠いていることを具体的に指摘し、審査官に再考を求める対応が可能です。
②請求項2の発明のみに補正し、請求項1の発明を分割出願する
上記(1)のように対応した場合であって、審査官が意見書での主張内容によっても「拒絶理由は解消していない」と考えるときには、審査官の最終判断たる拒絶査定が下されてしまいます。この場合、拒絶理由通知書で「拒絶理由を発見できない」とされていた請求項2記載の発明について特許権取得するためには拒絶査定不服審判を請求する必要が生じます。
そこで、請求項1の発明に対する「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由の論理付けは妥当性を欠いているように思われるが、意見書提出で審査官に再考を求めたときに確実に拒絶理由を解消できるか不明の時には、「拒絶理由を発見しない」とされた請求項2の発明のみに補正して早期に特許成立を目指し、一方、効力範囲の広い請求項1の発明については、本件特許出願から分割し、新たな特許出願にしてもう一度審査を受ける対応が可能です。
本件特許出願から分割した新たな特許出願で、再度、同一内容の拒絶理由を受け、それに対して意見書を提出し、拒絶理由の論理付けが妥当性を欠いていることを具体的に指摘して審査官に再考を求め、請求項2の効力範囲での特許権だけでなく、より広い効力範囲の請求項1発明での特許権取得を目指すものです。
なお、分割出願は、拒絶理由通知書で指定された応答期間(拒絶理由通知書発送日から60日以内)に行うことができますが、上述のように、本願発明の特許請求の範囲を請求項2の発明のみにする補正を行って「特許を認める」という「特許査定」を審査官から受けてから30日以内(だたし、特許権の設定登録前まで)に行うことも可能です。
③請求項2のみに補正する
より広い効力範囲の請求項1発明での特許権取得を断念し、請求項2発明の効力範囲で特許権成立するだけで十分であるならば、上述の拒絶理由通知書に対して、請求項1を削除して特許請求の範囲記載の発明を請求項2だけにする補正を行い、このように補正したことで特許請求の範囲に記載されている発明は「拒絶理由を発見しない」とされた発明のみになったことを意見書で説明することで直ちに「特許査定」を受けることが可能になります。
いずれにしても、上位概念の発明に対して「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由の妥当性、成立する特許権の効力範囲などについて専門家である弁理士によく相談してから対応することをおすすめします。
<特許出願(特許申請)の基礎知識>
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